北海道の宗谷地方南部に位置する中頓別町。豊かな自然に囲まれた穏やかな山間のまちで、酪農業と林業が盛んなほか、道天然記念物である「中頓別鍾乳洞」や、砂金の採掘体験が行える「ペーチャン川」などの貴重な観光資源を有していることで知られています。
 この人口1,800人ほどの小規模な町も、多くの道内市町村と同様に、都市部への人材流失や少子高齢化による人口減少という悩みを抱えています。

 この町では平成元年にJR天北線が廃止されて以降、その代替として運行が開始された稚内市と音威子府村を結ぶ路線バスが自家用車以外で地域の主な足となってきました。しかし、昨今の人口減少などに伴い利用客が減り、路線バス維持に係る町の財政負担が減少しない上に(約2,000万円の支出)、現時点で1日3本の運行に収縮しているなど、地域の公共交通の利便性の低下が顕著となっています。

 このような大きな課題を抱える中、町では平成27年度に地方創生を目指す枠組みとして「人口ビジョン」「総合戦略」を策定。地域住民が将来にわたり安心して暮らし続けられることができるまちをつくるための施策として「地域交通の確保」を位置付けました。
 
 その具体的な推進にあたり、町は既存の枠組みだけで考えるのは難しいと判断し、地域交通の「あり方そのもの」の抜本的見直しを図るため、地域のあらゆる資源を有効活用するシェアリングの構築を目指すこととしました。その取組みの一つとして、平成28年度から内閣府の地方創生推進交付金を活用しつつ、町民による地域交通(自家用車を利用した相乗り)の仕組み『なかとんべつライドシェア』を開始しています。
 

『なかとんべつライドシェアの仕組み』
 
 なかとんべつライドシェアは、道路運送法に依らない展開として、町民ボランティアの自家用車により、利用者を病院や商店など希望の場所まで送迎する仕組みとなっています。利用者はUber社が展開するライドシェア配車アプリ、中頓別町のライドシェア配車受付専用ダイヤル(080-2867-4112)、町内各施設にある配車アプリ導入タブレット設置場所から、配車を依頼することができます(配車受付専用ダイヤルからは朝9時から夜21時まで)。
 時間帯や待機するドライバーの状況によっては配車ができない場合もありますが、朝8時から夜24 時まで年中休まず対応。移動場所に大きな制限はなく、発地・着地が町内であれば利用可能で、費用負担などはガソリン代の実費負担とシステム利用料のみになっています。なお、町民に限らず、観光客や海外の来訪者でも利用することが可能です。
 
 こうした仕組みの構築にあたって、町は交通分野の研究者や地域の交通事業者、世界的にライドシェアを推進しているUber社をはじめ、地域内外の様々な関係主体とともに「中頓別町シェアリング研究協議会」を設置。この協議会が推進拠点となり、町の地域交通に取り巻く現状調査から課題の洗い出し、仕組みの実施や普及啓発まで、地域や関係主体との着実な合意形成を図りながら取り組みを進めています。

 『安全性の確保に向けて』
 
 運転時における安全性をいかに確保するか―、これはライドシェアを導入する上で頻出する課題の一つです。なかとんべつライドシェアでは、安全性の確保に向けて、担い手となる町民ボランティアを研究協議会の準構成員に位置づけ、ライドシェアの仕組みや交通安全を考える会議への参画を依頼しています。
 
 会議では、安全運転(座学・技能)やトラブル対処方法の講習をはじめ、町内ヒヤリ・ハットマップの制作、ライドシェアの普及啓発手法の検討まで、月1回程度のペースでライドシェアに関する様々な事柄を議題にしつつ実施。受け身型の講習だけではなく、企画検討まで行うことで、取り組みにおける主体性の醸成を図り、安全意識の更なる向上に努めています。
 

 
 

 
 
 

『町民の共助が生む力』
 
 なかとんべつライドシェアは、実施日から平成30年3月末までに利用回数600回以上、総走行距離6,500kmを超える着実な利用実績を出しているとともに、利用者アンケートでも9割強 の利用者が満足と回答しているなど、高く評価されている取り組みとなっています。
 
 こうした実績や評価の背景には、中頓別町の取り組みに呼応して動いている町民の存在が欠かせません。現在は14名の町民がボランティアのドライバーとして活動しており、買物から通院・観光まで、町民自らが新たな地域交通のかたちを築いています。ボランティアの方々の属性は様々ですが、「町の住民をサポートしたい」「町の力になりたい」ということは共通の思いです。ライドシェアを通して町民同士の支え合い・分かち合いの輪がつくられ、地域に新たな可能性が生まれようとしています。

今回取材させていただいた中頓別町役場総務課政策経営室 笹原さんより、今後の取り組みについてお伺いしました。
 
「ライドシェアはドライバーの存在があってこそ、役割が生まれるものです。現時点のドライバー人数では、稼働できる時間帯や距離等に限界があり、一つの地域交通と呼ぶためにはまだ心許ない状況にあります。町民のみならず、観光客等も引き込める地域交通とするため、今後はまずドライバーの確保に注力し、更なる町民への理解や利用促進を呼び掛けていきたいと考えています。」
 

 
 
 
「また、ドライバーの確保や利用地域を広げる上で、広域的な視点も重要と考えており、他市町村に取り組みを波及できないかとも模索しているところです。本町におけるライドシェアは、決して既存の公共交通機関の利用者を奪い合うものではありません。先細りつつある地域の交通資源の充実化を図り、交流人口を増加させ、ひいては観光等による経済活性化に繋げるために実施するものです。こうした趣旨を踏まえつつ、地域交通としての機能をより拡充していきたいと考えています。」

 地域交通の機能低下をはじめ、人口減少に伴う様々な課題を抱える地方において、予算・人員面ともに公共サービスで解決していくのは難しいと考えられています。そこで現状のサービスの代わりになり、地域の新たな可能性として注目されているのが、すでに地域の中にある遊休資産を効率的に活用する手段「シェアリングエコノミー」です。

 中頓別町におけるライドシェアの取り組みもその一つで、シェアによるサービスが地域のインフラになれば、国等の支援がなくても、地域の中で住民の抱える課題を解決でき、費用や予算の問題を回避することができるものとなっています。

 シェアリングエコノミーの理念は、「所有」から「共有」に切り替え、個人だけの無駄な消費をなくし、モノをより大事に使うことです。このことからも、経済面の利点のほか、共有による省資源・省エネルギーが進むと考えられ、環境面でも大きく寄与する可能性を秘めているものとなっています。
 
 経済と環境の両立を図る上での有力な手段、シェアリングエコノミー。持続可能な社会実現に向けて、重要なキーワードの一つといえるでしょう。


[本件に関するお問合せ] 
中頓別町「なかとんべつライドシェア」のHPはこちら 
 
中頓別町役場総務課政策経営室
住所:北海道枝幸郡中頓別町字中頓別172番地6 電話:01634-6-1111
取材協力:中頓別町役場総務課政策経営室 笹原さん