知内町は、北海道南西部に位置する人口4,500人程の町で、東側は津軽海峡に面し、その他三方を山岳に囲まれている立地から、豊かな自然と水産・森林資源に恵まれた環境を有しています。その恵みを享受し、古くから農林漁業を中心に栄えてきましたが、近年では都市部への人材流失や少子高齢化、生産年齢人口減少等の波を受け、産業及び経済の衰退が懸念されています。
そこで、知内町は地域の活性化に向けた方策の一つとして、町総面積196.75km2の約81%を占める豊かな森林(木質バイオマス)を活用した再生可能エネルギーの取り組みを進めています。
これまでに、林業者をはじめとする地域主体と連携しながら、地域材(未利用材)の供給体系を構築したほか、「木質資源貯蔵施設」と「木質バイオマスボイラー施設」の整備を実施。木質資源貯蔵施設では地域材の集荷と木質チップの生産・運搬を、木質バイオマスボイラー施設では木質チップの燃焼と熱供給を行い、現在では、知内町役場と知内町民プールの2つの公共施設へ熱供給を行っています。
知内町は、こうした木質バイオマス利用の取り組みを通して、地域林業の再生や施設運営による雇用創出などの地域活性化とともに、温暖化防止を図り、「低炭素・循環・自然共生」地域創生実現プラン(環境省モデル事業)において掲げている「地域資源の恵みを賢く利用した『持続可能な自主・自立のまち知内』」の実現を目指しています。
① 小谷石展望台から望む、知内町(矢越地区)の風景。
② 名産の一つ、知内カキ。全国的にも珍しい外海養殖で、津軽海峡の早い海流で育てられる。大きく身が締まっており旨みが多い。
③ 道内一の生産量を誇る、知内ニラ「北の華」。葉の幅が広く肉厚で、食べると甘く柔らかい。
ここでは、知内町が本取り組みに至った経緯とともに、木質バイオマス利用の拠点となる木質資源貯蔵施設について、焦点を当ててご紹介します。
『地域資源の活用を目指して』
取り組みのきっかけは、知内町役場内の重油ボイラーが老朽化し、更新時期を迎えていたことにあります。ボイラーの更新計画を進めていく中で、「新しいボイラーの燃料には重油ではなく、地域の森林資源(木質バイオマス)を活用できないか。」という発想が町役場内で挙げられ、これに対し活発な議論が行われることになりました。
地域の森林資源を燃料とすることは、エネルギーの地産地消となり、地域内経済効果が見込まれるほか、カーボンニュートラル※1として地球温暖化防止に寄与できるといった利点があります。加えて、国や北海道が設備導入にかかる補助金を支給している情勢下を踏まえ、議論を重ねた結果、「初期投資は大きくても、やってみる価値はある」と判断し、木質バイオマスボイラーの導入を有望視する運びとなりました。
一方、町役場への熱供給だけでは、冬季の暖房利用のみとなることから、初期投資の大きさに対して稼働時間が短い(=効果が低い)という課題がありました。そこで、同時期に、町役場の隣接地において建設計画を進めていた町民プールに着目。このプールは夏季営業のみであり、かつ温水での利用を想定していたことから、プールの加温にも熱供給を行う方針としました。
町役場の隣接地に木質バイオマスボイラー施設を整備し、冬季には町役場、夏季には町民プールへ熱供給を実施する計画となり、年間を通した操業の見通しが立ったことで、導入に向かって大きく舵を切ることになります。
そして未利用材の安定供給は現実的であるか、裏付けを取るため、平成25年度に「木質バイオマス賦存量調査」を実施。充分な利用量があるとの評価を受けたことで、地域林業者等と地域材の供給体系構築を図り、平成26年度にはバイオマスボイラー施設、木質資源貯蔵施設の整備を進め、現在の「木質バイオマスによる熱供給」の取り組みに至っています。
④ 知内町民プール。プールの加温に熱供給を行っている。建屋には地元スギによる大断面集成材等を使用し、ここでも地域の資源を有効活用している。
⑤ 木質バイオマスボイラー施設。右は木質チップの貯留室、この部屋から木質チップが自動で室内のボイラーに投入される。
⑥ 360kWの木質バイオマスボイラー(ドイツ・シュミット社製)。
『木質バイオマス利用の拠点、木質資源貯蔵施設』
木質バイオマスボイラー施設とともに整備された木質資源貯蔵施設は、地域材の集荷から燃料となる木質チップの生産・運搬まで一貫して実施しており、知内町における木質バイオマス利用の拠点として位置づけられています。本施設の運営は、指定管理者制度※2を適用し、知内町森林組合と物林株式会社(東京)の共同企業体「SBフォレスト」が実施しています。
共同企業体という形態は、有事の際でも安定的な材の集出荷を図れるよう配慮したもので、知内町森林組合が主に周辺地域の集出荷を担い、それを補う形で物林株式会社が広域を担当するという体制となっています。そのため、知内町産を中心にしながらも、道内各地からチップ原料となる未利用材を集荷しています。
本施設によるチップ生産量は平成28年度で約1,000トン、このうち約400トンを町が購入し木質バイオマスボイラーに利用、残りの約600トンは道内民間事業者へ販売しています。この町内利用分により、従来の重油燃料利用時と比較して、年間約151トン-CO2(平成27年度)のCO2排出量を削減することができています。
また、知内町森林組合において約2名の雇用が生まれており、新たな雇用を創出する場としても本施設は大きな役割を担っています。
⑦ 木質資源貯蔵施設。建屋内に生産したチップを集積している。
⑧ 木質資源貯蔵施設の集積ヤード。集荷した未利用材を集積、乾燥させている。乾燥後、チッパー機(写真:緑色の機械)を用いてチップ化を行う。
知内町はこうした取り組みをよりいっそう推進するため、平成28年度に「バイオマス産業都市」※3の認定を受けています。この認定によって国から財政面や制度面などの支援を受けられることになりました。そこで、更なるバイオマス利用の取り組みの拡充を図るべく、同年に「知内町バイオマス活用推進計画」を策定しています。その中では、平成29年度中に知内町中央公民館及びスポーツセンターへ熱供給を行う木質バイオマスボイラー施設を新たに整備するほか、多くの公共施設において木質バイオマスによる熱供給を行えるよう体制を整えると記しています。このことから、今後も地域材の需要が増加し、林業者や木質資源貯蔵施設等において、更なる雇用の創出や地域内経済効果が生じると考えられます。
また、上記計画においては、木質バイオマスのほか、農業や漁業など基幹産業における未利用のバイオマス資源の活用も検討しています。あらゆる地域資源を利活用しながら、地域課題の解決や新規雇用・産業の創出による地域活性化を図ると同時に地球温暖化防止を進め、「持続可能な自主・自立のまち知内」を目指します。
⑨ 知内町役場外観。
知内町は森林の活用に至りましたが、地理・気候・風土によって、資源のあり方は異なります。また、エネルギーの供給方法や地域の規模、主要産業など、地域のあり方も異なります。地域の資源や地域ならではの特性・特徴を見つめ直し、それぞれの地域がこうした取り組みを進めていくことで、人々の営みと温暖化防止が両立する持続可能な北海道・日本が作られていくのではないかと考えられます。
[注釈]
※1 カーボンニュートラル :
植物を燃料として排出された二酸化炭素は、植物が生長過程に吸収した二酸化炭素と同量で、温室効果ガスを増やすことにはならないという考え方。二酸化炭素の排出と吸収がプラスマイナスゼロであることを指す。
※2 指定管理者制度 :
多様化する住民ニーズに効果的・効率的に対応するため、民間ノウハウを活用し、住民サービスの向上と経費の削減等を図ることを目的として、民間事業者等も公の施設の管理を行うことができることとした制度。
※3 バイオマス産業都市 :
地域に存在するバイオマスを原料に、収集・運搬、製造、利用までの経済性が確保された一貫システムを構築し、地域のバイオマスを活用した産業創出と地域循環型のエネルギーの強化により地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とした、環境にやさしく災害に強いまちづくりを目指す都市を国が認定するもの。
[本件に関するお問合せ]
知内町のHPはこちら 知内町「知内町バイオマス活用推進計画」のHPはこちら
知内町役場地域創生推進室
住所:北海道上磯郡知内町字重内21-1 電話:01392-5-6161
取材協力:地域創生推進室長 三原さん、広報調整係長 赤松さん